「渡り鳥アトラス」考察 (10)
年をまたぐのも何なので、酉年最後の日に更新です。
「渡り鳥アトラス」P93~100、オオジュリンの地図についての考察は、これで完結です。
◆地図を読み解く ―オオジュリン編 3―
「アトラスの地図」についてこれまでに述べてきた問題点を、ここでちょっと整理しておこう。
- 地図には回収記録の空間的情報が記されているが、本来セットであるはずの時間情報が欠けている。放鳥・回収の時期を表示するのは必須。できることなら繁殖地・越冬地分布などの基本情報も統合してほしい。
- 情報が適切に整理されておらず、「渡り」のイメージがつかめない。解明したい疑問、注目すべき事例に応じて、表現方法を工夫してほしい。
- 放鳥地と回収地の2点を単純に線で結ぶ表示方法には限界がある。「線」にこだわらず「点」の情報をもっと分析してほしい。
- アトラスの本文には考察がほとんどない。また、考察に必要な情報が誌上に提示されていない。
以上の点を踏まえつつ、続きを見ていくことにする。
■P97 オオジュリンの短期間の春夏冬放鳥 →PDF参照
この地図に対して私が何を言いたいか、察しのいい方なら、既におわかりだろうと思う。
この地図は、「春夏冬放鳥」つまり、「その他の残り」をまとめて図示しただけのものだ。「短期間」の定義は「6ヶ月以内」であるから、ここには
春放鳥→春・夏・秋回収
夏放鳥→夏・秋・冬回収
冬放鳥→冬・春・夏回収
がすべて含まれることになる。放鳥と回収のどちらかが「夏(繁殖期)」である可能性が高いことが予想できる。
しかるに、P97の解説はこうである。
本種の短期間で秋以外の春・夏・冬放鳥の回収記録(50km以上)は27例あり、北海道放鳥または回収がそれぞれ8例と9例あり、3分の1近くを占めている。
そんなの「当たり前」ではないの? 国内のオオジュリン繁殖地は北海道と東北の一部に限られているんだから。
地図を見ても、「いつ放鳥され、いつ回収されたものか」は不明なので、読者は自分なりに考察を深めることすらできない。
■P98 オオジュリンの繁殖期放鳥・繁殖期回収 →PDF参照
(前略)35例あるが、このうち30例は北海道が放鳥地または回収地となっており、主な繁殖地であることを示している。北海道以外では青森県(3例)と新潟・山形の両県で各1例の繁殖期の記録がある。
つまり、オオジュリンの繁殖地分布を探りたかったようだ。
この場合、地図上の「線」にはまったく意味がない。むしろジャマだ。繁殖期に放鳥または回収(要するに捕獲)された「点」のみ示せばよいのである。
その場合、北海道に30、青森に3、新潟に1、山形に1、合計35個の「点」が表示されることになる。これを、オオジュリンの生息分布地図に重ねてみると、なるほど一致する、ということになるのだろう。あるいは、今まで知られていなかった場所での繁殖が確認されたりするのかもしれない。
こんな感じかな?
(詳細データがわからないので、あくまでイメージである。)
時期を細かくチェックすれば、その記録が本当に繁殖地を示すものなのか、繁殖地へ移動中の可能性も含んだものなのか、推測することができるだろう。ただし、こういう分析は、わざわざ足環をつけて個体識別したことと、あまり関係がないようにも思う。
■P99 オオジュリンの県別回収 →PDF参照
放鳥地・回収地の県別のクロス集計表である。
私には、これをどう活用すればよいのかわからないし、解説も何が言いたいのか理解しかねる。
これらの放鳥・回収県を、太平洋側と日本海側および中間(あるいは両方を含む)の県に分けてその関係を見ると(表3.44.1参照)、太平洋側放鳥のものはその73.7%が太平洋側で放鳥され日本海側で回収されたのはわずか7.6%であった。一方日本海側放鳥のものは47.7%が日本海側で回収されているものの、13.1%が太平洋側でも回収されている。
まず、表の39都道府県をどのように「太平洋側」「日本海側」「中間」に分類したのか不明である。また、算出した割合から何が推察できるのか、言及していない。ただ、こんな計算をしてみたら、こういう結果が出ました──と、それだけである。
読者に考察をゆだねるにしても、情報がなさすぎる。
■P100 オオジュリンの短期間の宮城県・新潟県・福岡県秋放鳥
→PDF参照
この地図は、「本種の秋の渡りのコースについて太平洋側と日本海側での違いを知るため」に作成されたもので、どうやら、前ページの県別集計を受けて、さらに一歩踏み込んでみたものらしい。
一見して、今までの地図よりは「意味がありそう」に思える。目的が明確だからであろう。ムダな「線」もないので、見やすい。
しかし、解説は相変わらず記録内容を文章で説明しただけであり、考察は加えられていない。唯一、福岡県放鳥の結果について、「熊本県以外の記録は東(または東北東)への移動であり、おそらく朝鮮半島から渡来したものであろうと推定される」と述べているだけだ。P94にも出てきたフレーズだ。結局、オオジュリンの豊富な回収例から言えることは、このことだけなのだろうか?
ところで、この地図は「秋の渡りのコース」を探るためのものであるはずだが、凡例は次のように示してある。
○:放鳥地
▲:3-5月回収
●:6-8月回収
◆:9-11月回収
ん? 放鳥は「秋(9~11月)」だから、6ヶ月以内なら5月回収もあり得るのだが、その時期はもう「秋の渡り」どころか繁殖シーズンである。また、「6~8月回収」というのは6ヶ月以上経過しており「短期間回収」には当たらない。なんで、これらがごちゃ混ぜになっているのだろう。しかも、「冬(12-2月)回収」がないのはどういうこと?
もしかして──
○:放鳥地
▲:3-5月回収
●:9-11月回収
◆:12-2月回収
の間違いだったりするのかな??
いずれにしても、「3-5月回収」は除外したほうがスッキリするだろう。つまり、
○:放鳥(9-11月)
●:9-11月回収
◆:12-2月回収
を示せば、「秋の渡りのコース」を探る材料にはなるかと思う。
それにしても、せっかく「本種の秋の渡りのコースについて太平洋側と日本海側での違いを知るため」という目的を提示しているのだから、集計結果に対しての見解を示してほしいものだ。もちろん、この情報だけで何かが解明できるわけではないけれど、「こういうことが考えられる、だから今後はこういう観点での調査が必要になりそうだ」といったことは示すべきではないだろうか。35年間の調査結果を集約する意義は、そこにあると思う。
ジョウビタキとオオジュリンを取り上げることで、「アトラス」の地図に対する疑問点は、ほぼ言い尽くしたような気がします。
酉年は暮れてゆきますが、野鳥の標識調査については引き続き考えていくつもりです。来年もよろしくお願いいたします。それでは、どうぞ良いお年をお迎えください。
| 固定リンク


コメント
しまりんさま、あけまして、おめでとうございます。
大晦日まで更新、お疲れさまです。ことしも、よろしくお願いいたします、明快な切り口、期待しております。
投稿: ごいち | 2006年1月 2日 (月) 21:12
ごいちさま、あけましておめでとうございます。
3回完結だったので、慌しく年末に更新しちゃいました。お正月モードでのんびりしすぎて、新年のスタートには時間がかかるかも(笑)。でも、まだ読みきれていない資料がいっぱいありますから、地道にがんばりま~す。
今年もよろしくお願いいたします!
投稿: しまりん | 2006年1月 3日 (火) 00:58
しまりんさま、あけましておめでとうございます。
今年も鋭くて感動的な考察を期待しておりますよん。
「渡り鳥アトラスの考察って、学生がゼミの直前にあわててまとめたレジュメしたい」----うちのカミサンのセリフです。新年早々大爆笑しました。(小鳥たちにとっては笑い事じゃ済まないよなぁ。。。(^_^;) )
投稿: 中島@カワセミ日記 | 2006年1月 4日 (水) 14:17
んで、
> 「こういうことが考えられる、だから今後はこういう観点での調査が必要になりそうだ」といったことは示すべきではないだろうか。35年間の調査結果を集約する意義は、そこにあると思う。
まったく同感です。「無目的に漫然と」やってたのを無理矢理まとめたので、ああいう考察しかできなかったんじゃないの?と言いたくなりますね。本気で「学術的」成果を追い求めているのでしょうかね?
投稿: 中島@カワセミ日記 | 2006年1月 4日 (水) 14:33
中島さま、あけましておめでとうございます!
(こちら、大晦日のままで、すみません…)
カワセミ日記での今後の展開も期待しております。今年もよろしくお願いします。
過去の調査が、仮に規模の拡大だけを目指していたとしても、漫然と続けられていたのだとしても、35年の大きな節目であるアトラスできちんと総括できていれば、次の10年には期待がもてます。しかし、アトラスのまとめ方は画一的で、私のような素人の目にも粗がいっぱい見えてしまう。これでは、何年続けても同じことでしょう。実に残念です。
既にアトラスから10年経っています。その間の成果が実際どうだったのかを、これから検証してみる必要がありそうです。
投稿: しまりん | 2006年1月 5日 (木) 01:16